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初夏におすすめ!ギリシャの白ワイン・アシルティコ

ギリシャと聞くと、どんなイメージがわきますか?エーゲ海の青々とした海の広がり、白亜の壁に反射する強い日差し、まぶしく輝く空に溶け合う水平線、その手前に蜃気楼のようにぽっかり浮かぶ島影……。

そんな典型的なギリシャのイメージにぴったり重なるのが、アテネから飛行機で50分、高速船だと約5時間のサントリーニ島です。

観光客の間では「picture postcard island」とも呼ばれていて、実際に訪問してみると、レンズでどこを切り取っても絵になってしまう美しい島であることを実感します。

サントリーニは、欧州の観光地として人気ですが、ギリシャを代表するユニークな白ブドウの土着品種、アシルティコの発祥の地としても知られています。10年ほど前、ニューヨークのワインバーでブレークして以来、欧州で人気に火が付き、日本でもトップソムリエたちが注目し始め、高品質なアシルティコが入手できるようになりました。

アシルティコってどんな味わい?

さて、どんな味わいなのか気になりますよね。フレッシュで、切れの良い酸があって、柑橘系中心の香りが心地よく、ミネラル感と塩味に富むナチュラルな味わい……とでも表現しましょう。

春から夏に移り行く穏やかな日差しの中で、初夏に向かう高揚感を少しずつ感じながらグラスを傾けるには、最適なワインではないでしょうか。

ブドウの生育期、サントリーニではほとんど雨が降りません。早朝と夕方、島は深い霧に包まれ、ブドウを日中の高温から守ってくれます。特徴的なのが、常に強い北風が吹きつけていること。

強風対策として採用されているのが、ブドウの木を地面に螺旋を描くように丸く整えるバスケット型の株仕立て「クールーラ」です。この方法だと、葉が重なりあって熱がこもることもなく、房はバスケットの中で育つことができるのです。

火山爆発がもたらした恩恵

アシルティコを特徴づける「フレッシュな酸」と「豊かなミネラル」は、サントリーニのユニークな土壌に由来しています。この島は、紀元前17世紀に起きた火山の噴火(ミノア大噴火)によって中央部が沈没、三日月形の島になりました。

同時に、溶岩や火山灰、軽石などを含む土壌を形成、そのため、有機物が少なく、粘土質が含まれないため、ブドウの害虫フィロキセラの被害を免れています。島内には、樹齢100年を超える古木のブドウがたくさん残っています。

島の南にあるアクロティリ遺跡に行くと、当時の大噴火のすさまじさが推察できます。そこは火山灰に埋もれた街。1967年に発掘されるまで深い火山灰に覆われていたため、保存状態が良好とされています。

自由で明るい作風のフレスコ壁画や、宗教儀式にワインなどを入れて使われた容器が多数発見されており、島の中心地フィラにある新先史期博物館などに展示されています。

現地を訪問する機会ができたら、小ボートに乗って火山探索ツアーに出かけることをおすすめします。三日月形のメインアイランドの港を出発して、目指すは向かい側にある火山、ネア・カメニ。この火山、約20万年前に海上に姿を現し、噴火を繰り返しつつ成長してカルデラを作ったのだとか。

今私たちが見られるカルデラは、先に記したミノア大噴火でできたといわれています。その歴史は幾層にも重なる地層に表れていて、圧巻です。隣にあるパレア・カメニには温泉も。船の上からドボンと飛び込んで200㍍ほど泳ぐと、海の色が黄み帯びたところがあり、生温かい感覚が何とも心地よいのです。

浜辺に近づくと、足元にはふかふかの泥。硫黄泉なので、意識すると鼻につんときます。ガイドの案内で、泥をすくっては顔や腕に塗って、ツアー参加者は皆はしゃいでいました。

合わせる料理はやはりシーフード

ステンレスタンクでクリーンなワインに仕上げられているタイプが多いので、どんな料理やつまみにも合わせやすいです。オリーブや完熟トマト、キュウリ、オニオンにフェタチーズを載せた「グリーク・サラダ」は、レモンをたっぷり絞り、オリーブオイルをかけていただきます。

アクロティリ遺跡のフレスコ画に、両手に魚を持った若き漁師らしき青年が描かれており、昔からシーフードを食べていたことが容易に想像できます。私のおすすめは、タコのやわらか煮、そして、ロブスターのトマトパスタ。

もちろん、寿司や白身魚のマリネなどにも合いますが、厚みのある白ワインなので、甲殻類独特のうまみを含んだアメリケーヌソースとの相性が抜群です。

現地訪問の際には、ワイナリーでの「ワインテイスティング・フライト」をぜひスケジュールに入れてください。協同組合のサント・ワインズは、水平線に沈む夕陽のスポットとしても大人気。最大16グラスが楽しめます。

しかも1グラス60ミリなので、満足度が高いです。サントリーニを代表するドメーヌの一つ、ドメーヌ・シガラスでは、7つの村名違いのアシルティコなどが試せます。20~30ユーロが中心で、お手頃です。

日本で入手できるおすすめは?

ギリシャには、EUのワイン法にならって作られたPDO(原産地呼称表示)があります。サントリーニで「PDOサントリーニ」を名乗るには、アシルティコを75%以上使用しなければなりません。

アシルティコ100%は、味わいが複雑でパンチがきいていますが、アロマティックなアシリやフローラルで繊細なアイダニがブレンドされると、やや強い性格が緩和されて香りの幅広さが加わります。アシリもアイダニも土着品種。ぜひブレンドも楽しんでみてください。

日本ではあまり飲む習慣がないかもしれませんが、日干しブドウから造る「ヴィンサント」と呼ばれる甘口ワインも美味しいです。中世のイタリアでは、ベニスの商人により大量に取り引きされていました。

日本でも通販で気軽に取り寄せられるアシルティコの中から、いくつかおすすめを挙げておきましょう。主にサントリーニのものですが、マケドニア地方北部のフロリナには、これもギリシャを代表するキリ・ヤーニが造るアシルティコがあります。

▶︎サントリーニ アシルティコ ドメーヌ シガラス

▶︎キリ・ヤーニ アシルティコ・フロリナ

▶︎ドメーヌ・シガラス サントリーニ・アシルティコ・アシリ

▶︎サントリーニ ヴィンサント ドメーヌ・シガラス

エーゲ海の風と太陽を感じながら、お楽しみください。

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永峰 好美

読売新聞記者として、主に生活面・解説面などで長年取材活動を続けてきたプロライター。
日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。
80年代後半、取材で初めて訪れたパリの「トゥール・ジャルダン」で、フランス人の招待主が分厚いワインリストを手にソムリエと楽しそうに会話してワインを選定、そのワインがとてつもなく美味しく、ただただ感動したのが、ワインにはまるきっかけに。2005年から百貨店のプランタン銀座(現マロニエゲート銀座)で役員を務め、現場でワインの営業も経験。その後、読売新聞の編集委員を経て、2018年5月、記者生活を卒業。2020年末まで、ギリシャ大使の夫に伴いアテネ在住、大使夫人として外交のもてなしの場で活動。宴席のワイン・日本酒セレクションを担当した。共著に「スペインワイン」(早川書房)。日本ソムリエ協会の機関誌には、世界最優秀ソムリエコンクールのルポ記事をはじめ多数寄稿している。東京の自宅近くでマスカットベリーAの栽培も。趣味は遺跡と博物館巡り。 永峰 好美の記事一覧 

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