お正月にもおすすめ!魚卵とワインのペアリング
魚卵とワインの相性
『魚卵とワインは合わせるのが難しい』と昔からよく話題に上がりますね。私は昔、ちょっとした冒険心で魚卵と合わないワインを敢えて合わせてみたところ、まるで生ゴミを凝縮したかのような強烈な風味が込み上げてきて、苦い思いをした経験があります。
知らず知らずのうちに合わせてしまって、トラウマになってしまったという方もいて、そうなるとせっかくのお料理もワインも台無しになってしまいます。
メルシャンの研究で、ワインに含まれる鉄イオンのうちFe²⁺という成分と、魚卵だけでなく魚介類全般に含まれる脂質が反応することで瞬時に酸化を促し、生ゴミのような風味の2,4-ヘプタジエナールが生成されることが解っています。
では、ワインは合わないのかというと、そういう訳ではありません。ワインに含まれる鉄の含有量が低い甲州種のワインは魚介類に合うことで知られていますね。鉄自体の含有量が少ないので臭みが出難いのが理由です。
甲州種でシュール・リーを施したものは、ワインの澱が鉄を包み込む働きをしてくれるので更に臭いが出難くなります。シャンパーニュやオレンジワインも同様です。
そして、シェリーやヴァン・ジョーヌなどの酸化熟成されたワインは、鉄イオンのFe2+が酸化によって変化しFe3+となり、このFe3+は魚介類の脂質と反応しないので臭みが出ません。そういった種類のワインから、魚卵それぞれのもつ個性を合わせると、素晴らしいペアリングを見つけることができます。
今回はそれぞれの魚卵と相性の良いワインを紹介します。
イクラとワイン
イクラはサケやマスの魚卵です。一般的には加熱加工はせずに、塩漬けや醤油漬けにして食べられます。プチプチと海の味わいが弾けるイクラは、潮の風味を感じるワインと良く合います。イクラの甘さを豊かに感じさせる果実味豊かなワインもおすすめです。
世界的に高い評価を受けるシチリアのコスは、ブドウ栽培はビオディナミに拘り、古代のワイン造りを目指してアンフォラを用いてワイン醸造が行われています。
このキュヴェは、潮風を受けながら育ったグレカニコとインツォリアを使用したオレンジワインです。
アプリコットのコンポートや夏ミカンのような甘やかな香り、滑らかな舌触りによく熟した果実味と力強いミネラル感が余韻まで長く続きます。
イクラのもつ海の味わいや、果実味豊かな甘さが同調し、豊かに感じられます。
* 原産国:イタリア
* 産地:シチリア
* 品種:インツォリア、グレカニコ
* 生産者:コス
* 味わい:甘口☆☆☆★☆辛口
* 容量:750ml
キャビアとワイン
世界三大珍味の一つに数えられるキャビアは、チョウザメの卵巣をほぐし、塩漬けにしたもので高級食材としても有名です。キャビアの中からは滑らかで濃厚な味わいのねっとりしたエキスが出てきます。
プチっと弾ける食感には、スパークリングワインの泡の刺激が良く合います。塩漬けにしたキャビアのしっかりした旨味に寄り添うボディのしっかりしたシャンパーニュがおすすめです。また、サワークリームなどの油分とともに摂取することで、更に臭みを防ぐことが出来るので、おすすめです。
1829年創業の名門シャンパーニュ・メゾンであるボランジェ。オーク樽での発酵やカーヴでの長期熟成などの伝統的なシャンパーニュ造りを守り続けています。
このキュヴェは、スペシャル・キュヴェをベースに、アイとヴェルズネイのグラン・クリュで収穫された、ピノ・ノワールのみで造った赤ワインを5~6%加えて造るため、スペシャル・キュヴェよりも厚みが感じられます。
イチゴ、ラズベリーのソースのような香りヴァニラやトーストなどの香ばしい香り、やや厚みのあるボディで、旨味も豊かですがそれに伴ってフレッシュさも感じられます。
キャビアは鉄分が多い食材ですが、シャンパーニュの澱が鉄を包み込む働きをしてくれるので、臭みを感じません。木樽での発酵熟成により好機的な環境で醸造されていることによる複雑な風味や旨味が、キャビアの豊かなエキス分にマッチします。
* 原産国:フランス
* 産地:シャンパーニュ
* 品種:ピノ・ノワール、シャルドネ、ムニエ
* 生産者:ボランジェ
* 味わい:甘口☆☆☆★☆辛口
* 容量:750ml
数の子とワイン
ニシンの魚卵である数の子は、お正月のおせち料理で召し上がる方も多いのではないでしょうか?数の子は粒の多さから子孫繁栄を連想させるとして縁起物とされています。
高級な順から干し数の子、塩蔵数の子、味付け数の子などの種類がありますが、ミョウバン漬けのものはワインと合わせると苦味が強くなるので合いません。
干し数の子は、干したことにより鉄イオンのFe2+が増えて臭いが強くなるので合わせるのには注意が必要です。おすすめは酸化熟成によるフロールの風味が豊かなヴァン・ジョーヌです。
1650年まで歴史を遡ることのできるジュラの伝統的なドメーヌ・ガヌヴァは、熱狂的なファンも多く、同じくジュラのピエール・オヴェルノワと双璧をなす造り手です。
このヴァン・ジョーヌは、約10年間もの間補酒せず古樽で熟成されるので、ナッツやクミンなどの酸化熟成によるフロールの風味が豊かに香ります。
酸化熟成のワインは臭みを出さないので、安心して合わせることが出来ます。数の子の味付けに使われる鰹節と昆布出汁はじんわりとした旨味が同調し、より豊かに感じられます。
1週間くらい抜栓して置いておいた方が美味しかったりします。早めに購入し、数の子用に準備しておくのはいかがでしょうか?
* 原産国:フランス
* 産地: ジュラ
* 品種: サヴァニャン
* 生産者:ドメーヌ・ガヌヴァ
* 味わい:甘口☆☆☆★☆辛口
* 容量:750ml
魚卵とワインのペアリングは、コツを押さえれば、美味しく楽しむことができます。
素敵なお正月をお過ごしください。
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JSA Sommelier
The Ritz Carlton Tokyo Azure45や、阿部誠氏が率いる「東京ぶどう酒店」、「サロン・ド・シャンパーニュ ヴィオニス」、フランスのシャンパーニュ地方ランス「Domaine les Crayéres」にて10年以上サーヴィス、ソムリエールとして働く。
現在様々な形でワインを広めるべく雑誌やウェブメディアにて執筆中。
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