ペアリングワイン

あなたの好きな香りから選ぶワイン〜花編Part 3〜

香りの不思議

今私が住んでいるフランスのニースから車で45分の所にグラースという小さな街があります。このグラースは、香水の都として知られています。

中世の頃には、なめし皮産業が栄え、特にレザーの手袋が人気でしたが、皮のもつ独特な匂いの評判がよくありませんでした。そこで、プロヴァンスで咲くバラや、ジャスミン、オレンジの花、ミモザといった花の香りの曹に手袋を浸すことを思いついたのが始まりで、18世紀の後半からは香水産業で栄え、今もなお、香水メーカーが集まり、世界中の調香師が訪れます。

5月になるとバラが咲き乱れ、芳しい香りが街全体を包みます。これは『ローズ・ド・メ』といってグラースを代表する香りの一つで、もう一つがシャネルのNo.5でも使われているジャスミンの香りです。グラースで採れるジャスミンの殆どがこのNo.5へと生まれ変わります。

グラースでは、まるで調香師のように好きな香りを合わせてオリジナルの香水をつくる体験ができます。トップノート、ミドルノート、ラストノートにそれぞれ香りを選んでつくった香りは、その人の個性がよく表れます。

そして、香水製造では、良い香りばかりではなく、インドールやスカトールといった単独ですと不快な匂いのする成分を少しだけ混ぜてつくられます。そういった香りが良い香りをさらに引き立てるエッセンスとなるから不思議です。

ワインの香りも単独では良い香りとはいえないような香りも含まれたりしますが、他の良い香りと混ざると魅惑的な香りに感じさせてくれることがありますね。

テイスティングコメントに、ジビエの香りや、野趣のある香りなどと書いてあると躊躇してしまう方もいるかと思いますが、少量で、他の香りと複合的に香ると良さを深めてくれたり、魅力的になることも多いのです。是非お試しになってみてください。本当に香りは奥が深いです。

金木犀

秋の夕方になると漂ってくる金木犀の香りは、日本の秋の風物詩でもありますね。世界三大美女の楊貴妃が好んで飲んでいたとして知られる桂花陳酒は、白ワインに金木犀を漬け込んで造られた芳しい香りのお酒です。

江戸時代に中国から日本へ渡って入ってきて、その強い芳香からお手洗いの芳香剤の役割として、庭先に植えられました。現在も、北海道と沖縄を除き、全国に植わっています。

金木犀の香りは、ストレス解消、安眠効果、ダイエット効果、抗酸化作用、アンチエイジングなど様々な効果があり、薬膳として知られる桂花も金木犀のことで、古くからお腹を温め、気の巡りをよくする効果があるとされ親しまれてきました。

香気成分は、桃のような香りのγ-デカラクトン、スミレの香りとしても知られるα-イオノンとβ-イオノン、フローラルなリナロールやリナロールオキシドといった成分が含まれています。

▶︎ル・シャン・ブコー ドメーヌ・モス

ワインバーを併設したワインショップの経営からの転身で、ビオディナミの高品質ワインを造る生産者ドメーヌ・モス。このワインは、本来ならばコトー・デュ・レイヨンのはずですが、少し酸化的であるという理由で却下されてしまい、ヴァン・ド・フランスの表記になっています。

貴腐ブドウが20%に、乾燥させて糖度を高めたブドウ80%で、花梨の蜂蜜漬け、メロン、オレンジピール、金木犀、カラメルのような甘く芳醇な香りが広がります。

滑らかな質感に凝縮されたリッチな果実味、濃厚な甘さに繊細さを与えるミネラルと、しなやかな酸が長い余韻へと繋がり、とても素晴らしいワインです。

* 原産国:フランス
* 産地:ロワール
* 品種:シュナン・ブラン
* 生産者:ドメーヌ・モス
* 味わい:甘口☆★☆☆☆辛口
* 容量:500ml

オレンジフラワー

ヨーロッパでは、その花の咲き方から、子孫繁栄の象徴とされ、日本でも代々受け継ぐという意味あいでダイダイと名付けられました。

天然の精神安定剤とも言われる程、リラックス効果があります。精神的なストレスが原因の不眠や、胃痛などの改善に役立つと言われています。

香気成分は、フローラルなリナロール、酢酸リナリル、レモンの香りのリモネン、ジャスミンのような香りのアンスラニル酸メチル、量によっては不快な香りになるインドールが含まれています。

▶︎カシー・ブラン クロ・サント・マグドレーヌ

プロヴァンスを代表する銘醸地カシーのワインで、最も有名なのがこのクロ・サント・マグドレーヌです。

このカシー・ブランは、フレッシュなレモン、グレープフルーツなどの柑橘の爽やかな香りに、ローズマリー、アニス、オレンジフラワー、蜂蜜の香り、軽快なアタックですが中盤から塩味がかったミネラルに、まろやかな蜜っぽさや旨味が感じられ味わい深く余韻が長く続きます。

* 原産国:フランス
* 産地:プロヴァンス
* 品種:マルサンヌ、ユニ・ブラン、クレレット、ブールブラン
* 生産者:クロ・サント・マグドレーヌ
* 味わい:甘口☆☆☆★☆辛口
* 容量:750ml

ミモザ(フサアカシア)

黄色くふさふさした花姿が可愛らしいミモザが、鮮やかな黄色い色をしたカクテル『ミモザ』の元になったことはすごく有名ですね。インディアンの儀式では愛の告白時に、ミモザを渡すそうです。素敵ですね!

実は、ミモザは呼称のようなもので、正確にはフサアカシアといいます。テイスティングコメントでは、なぜかミモザよりもアカシアの花と表現されることの方が多く見受けられます。

少し紛らわしいですが、日本でアカシアの花と呼ばれているものは、ニセアカシアというマメ科の植物で、白い花を咲かせます。とても繁殖力が強いため、短期間で緑化が進む反面、自生していた黒松などの樹木が減少し、生態系の変化が問題にもなっていますね。

ミモザは、鎮静効果があり、抗うつ作用、消毒作用にも優れています。そして、皮脂の分泌を抑制する効果があります。

そして、香気成分はバラの香りのシトロネロールとネロール、スズランのような香りのリナロール、バラや蜂蜜のような香りのフェニルエチルアルコールなどが含まれます。蜜っぽい香りはこの成分からきています。

▶︎シャリン エミリオ・ブルフォン

絶滅の危機に瀕していた土着品種『シャリン』を見事復活させたエミリオ・ブルフォン。シャリン種が発見された近くにあったサンタ・マリア・ディ・バットゥーティ教会に現存するフレスコ画の『最後の晩餐』をモチーフにしたエチケットも素敵です。

彼らのワインが生まれる土地の象徴的な絵であり、教会であったことから、この品種たちが絶滅せずにいられたのはこの教会に守られていたおかげと感謝と敬意の気持ちを表しているそうです。

フレッシュオレンジや甘く熟した桃の香り、黄色いパプリカ、アカシアの花、ミネラルやヨードの香り、柔らかな果実味に優しい甘み、塩味がかったミネラル、まろやかな酸とオレンジの果皮を思わせる苦味が心地よく、余韻には甘やかな芳香が口内に溢れます。

* 原産国:イタリア
* 産地:フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア
* 品種:シャリン
* 生産者:エミリオ・ブルフォン
* 味わい:甘口☆☆★☆☆辛口
* 容量:750ml

好きな花の香りからワインを選んで、もっとワインを好きになっていただけたら幸いです。

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Haruka Kageyama

JSA Sommelier
The Ritz Carlton Tokyo Azure45や、阿部誠氏が率いる「東京ぶどう酒店」、「サロン・ド・シャンパーニュ ヴィオニス」、フランスのシャンパーニュ地方ランス「Domaine les Crayéres」にて10年以上サーヴィス、ソムリエールとして働く。
現在様々な形でワインを広めるべく雑誌やウェブメディアにて執筆中。 Haruka Kageyamaの記事一覧 

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