高級ワインだけじゃない!イタリアのカリスマシェフたちを夢中にさせるピエモンテ産ヘーゼルナッツとは?
イタリアでは、庭にハシバミの木を植えている家を多く見かけます。秋になると、このハシバミの木からドングリのような実が雨あられと落ちてくるのです。これが、「ヘーゼルナッツ」です。
見た目はドングリのようなこの実を、身近にある石で割ってそのまま食べると青臭い土の匂いがあり、いかにも野生の滋味といった感じ。質の良い脂肪を有し、即エネルギーになるこのヘーゼルナッッツは、近年の健康ブームでふたたび脚光を浴びている食材でもあります。
イタリアの北部、おいしいワインと食材を生み出すピエモンテは、そのヘーゼルナッツの生産地として有名です。その高名なヘーゼルナッツから、どんな食文化が生まれたのでしょう。
生産者が「世界一おいしい」と豪語するピエモンテのヘーゼルナッツ
古代からおいしいヘーゼルナッツを収穫できるハシバミの木を、人々は「魔法の木」と呼んでいました。ピエモンテには、魔女たちがハシバミの木を使って魔法の棒を作っていたという伝説まで残っています。
その中でもとくにおいしいと言われる「トンダ・ジェンティーレ」というヘーゼルナッツは、1993年にEUが定めるIGP(保護指定表示特産品)に認定されています。
IGP認定以降は、「ノッチョーラ(イタリア語でヘーゼルナッツの意)・ピエモンテ」の愛称で人々に愛されてきました。この「ノッチョーラ・ピエモンテ」は、ラツィオ州やトルコで収穫される高級品種と比べても格段に味がよいというのが、科学的にさまざまな農作物の味覚を調査研究する機関(Centro Studi Assaggiatori ) の見解なのです。
ピエモンテのヘーゼルナッツがこれほどの高評価を得る理由はなんでしょうか。ピエモンテ州の中でも、クーネオやアスティ、アレッサンドリアで収穫されるヘーゼルナッツが珍重される理由は、炒ったあとの芳ばしい香りと味が独特であるからです。また、形が揃っており、皮がむきやすく、保存にも強い品種であることも高評価につながっています。
ピエモンテのヘーゼルナッツから生まれたお菓子たち
良質なヘーゼルナッツが収穫できるピエモンテには、独特のお菓子文化が開花しました。最も有名なものは、1852年にイタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ二世の命でそのレシピが作られたといわれる「バーチ・ディ・ダーマ」です。
直訳すると「貴婦人のキス」。
チョコレートを間に挟んだビスケットの形状が、唇に似ていることからついた名前です。この優雅な名前のお菓子は、19世紀初頭にはすでにピエモンテで作られており、さまざまな菓子職人によるレシピが残っています。
サヴォイア家出身のイタリア国王たちの愛顧を経て、「バーチ・ディ・ダーマ」は欧州中で名前を知られるようになったのです。また、ヘーゼルナッツをふんだんに練り込んだチョコレート「ジャンドゥイオッティ」も、ピエモンテのヘーゼルナッツなしでは生まれませんでした。
この「ジャンデゥイオッティ」は、欧州がナポレオンの台頭で揺れていた時代、チョコレートの不足を補うために菓子職人がヘーゼルナッツを加えたのがはじまりといわれています。
とにかくチョコレートとの相性がよいヘーゼルナッツは、泣く子も黙るイタリアのチョコレートクリーム「ヌテッラ」の原材料にもなっているのです。
甘いものだけではない、お料理にも使われるヘーゼルナッツ
ピエモンテのクーネオにある高級ホテル「ヴィッラ・アメーリア」のレストランは、ミシュラン星つきシェフであり、イタリア国内では知らない人がいないダミアーノ・ニーグロが腕をふるっています。
彼は、毎年各地からカリスマシェフたちを招聘して「食卓のヘーゼルナッツ」なるイベントを「ヴィッラ・アメーリア」で開催しています。質の良い脂肪分を含むヘーゼルナッツ「ノッチョーラ・ピエモンテ」を、お料理のレシピにも加えようという星つきのシェフたちが一堂に会す大胆な試み。
毎年11月の終わりに開かれるこのイベントでは、お菓子だけではなくあらゆる料理にいかにしておいしいヘーゼルナッツを融合させるかを、有名シェフたちがお客さんたちの前で競うのです。
過去に登場したレシピには、「鱒と茎野菜」「鱈とフリアリエッリ(菜の花のような野菜)」にヘーゼルナッツが組み合わされたり、「サーロインステーキ」に蜂蜜とヘーゼルナッツのオイル成分を使ったソースをかけたりと斬新な料理が登場しています。
また、卵やチーズとも相性が良く、北イタリアらしくヘーゼルナッツを使ったリゾットも登場したようです。
ヘーゼルナッツと合うワインとは
ピエモンテのシェフやパティシエたちは、ヘーゼルナッツを使用した料理やお菓子とマリアージュするワインの模索も忘れていません。カカオの粉や蜂蜜と融合したヘーゼルナッツに見合うワインを見つけるのは、簡単なことではありません。
甘めのワインでも、なんでも良いというわけにはいかないのが難しいところです。アロマと甘さが効いた「バローロ・キナート」は、その中でもヘーゼルナッツとの相性が良いと言われています。
また、ヘーゼルナッツにとどまらずクルミやアーモンドを使ったお菓子とおいしくいただけるのが、ピエモンテのアレッサンドリアで生産される「ブラケット・ダックイ」。トーストしただけのヘーゼルナッツを味わうには、やはりランゲで生産される「ドルチェット・ダルバ」と相性が抜群。
生まれ故郷をともにするヘーゼルナッツとワイン、同じ肥沃な土壌で育った農作物を原材料にする者同士、相性がよいのかもしれません。
美術にも登場するヘーゼルナッツ
古代ローマの時代、ヘーゼルナッツは多産の象徴とされていました。また、キリスト教の時代には聖母マリアが毒蛇から逃れるために生まれたばかりのイエスとハシバミの木に隠れたという民間伝承があり、カルロ・クリヴェッリやアンドレア・マンテーニャといったルネサンス時代の画家たちが、聖母子像の一角にヘーゼルナッツを描いたりしています。
イタリア在住十数年、読書と美術鑑賞と食べることを生き甲斐に、イタリアの山奥で生息中。 cucciolaの記事一覧
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